2012年10月31日

人間の鼻

 田で籾殻を焼く煙、キンモクセイの花……その香りは、毎年、秋の深まりを気付かせてくれます。"春夏秋冬"折々に、その季節ならではの香りがあります。目だけでなく、耳や口や鼻と、“四季を感じる窓”が増えれば、生活はもっと彩り豊かになるに違いありません。
 香りがある物質はなんと、数千種類が知られています。それらが組み合わさると、香りの種類は無限に近いものです。人間の鼻は、そのうち実に1万から1万5千種類を識別できるという(三枝敏郎著『花の香り事典』透土社)すごいですね。  

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2012年10月30日

真意を受け止める努力

 百人一首に「ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは」があります。これは、川面に浮かぶ紅葉の美しさを詠んだ在原業平の歌です。
 一方、落語「千早振る」は、それを花魁の千早大夫と相撲取り・竜田川の物語に仕立てた珍解釈が聴き所となっています。百人一首にはない、その場しのぎの強引さが、笑いを誘います。
 しかし、落語では笑えても現実の会話での〝知ったかぶり〟はいただけません。そこまでいかないとしても、自分勝手な話しぶりは日常の多くの場面で散見されます。
 さて、私たちは日頃の会話で、相手の話に耳を傾け、真意を受け止める努力をしていでしょうか。  

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2012年10月29日

大事な視点

 飛鳥時代の工人は、木の特性を見抜き、右によじれる木と左によじれる木をうまく組み合わせ、左右のよじれをなくして直線になるようにしたそうです。法隆寺のヒノキが1300年ももったのは、この“木組み”にあるといわれています。
 ある造園師の話です。子どものころから植木畑の草むしりをしながら木の性格や個性を学びました。「同じ木でも、植えた場所や日当たり具合によって性格が違います。木によって、剪定や植え替えの季節が違います」。木の特性を生かす時と場所がある。と。
 石積の場合。器量のいい石垣は「すべての石が、大きい石も、小さい石も、全部がお互い手を結び合って強固なスクラムを組んでいる」と語ります。収まるべき場所に収まり、お互いの長所を生かすと、強固な石垣となる。(渡辺文雄著『仕事の原点』)
 中国の古典『韓非子』に「物を役立てるには適所があり、才能をはたらかせるにも用い所がある」(金谷治訳)と。これは、人材登用の大事な視点である。  

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2012年10月28日

英雄

 ロシアの詩人プーシキンは「英雄」と題した作品でナポレオンを謳っています。詩人プーシキンが詠んだ「英雄」の姿とは、アルプス越えの、あの凛々しい姿だろうか。「いや違う わたしが見ているのは 幸運にめぐまれた かれでもなく戦闘にある かれでもない」(木村すな子訳)
 プーシキンが讃えたのは、ナポレオンがエジプト遠征でペストに倒れた兵士たちを見舞い、一人一人に声をかけて激励する姿でした。今日に至るまで毀誉褒貶の激しいなかで、ナポレオンがなお人々をひきつけてやまないのは、彼が行動で示した並外れた勇気であり、慈愛ではないでしょうか。
 「英雄」と「凡人」を分けるものは何か。文豪ロマン・ロランは言っています。「英雄とは自分にできることをする人だ。ところが他の人はそれをしないのだ」(蜷川譲訳)。自分の「内なる力」を見つめ、信じ、自分らしく出し切っていく時、人は「英雄」となるのです。  

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2012年10月27日

スロー・リーディング

 今、スロー・リーディングが注目されています。スロー・リーディングとは“本をゆっくり読むこと”を指します。速読術のノウハウが語られる風潮の中で、もう一度、読書の原点に立ち返ろうとする試み、とも言えましょうか。
 読む速度によって本の印象は大きく変わります。仕事や研究で、多読・速読を余儀なくされることもあります。しかし、ゆっくりページを繰ってこそ、気がつく珠玉の言葉もあります。暮らしのかたちに合った、多様な読み方があっていいと思います。
 まことに至福の読書とは、読むリズムと理解の速度が呼吸・心拍とも連動した「本と心身とのアンサンブル」(山村修『増補 遅読のすすめ』ちくま文庫)に違いありません。  

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2012年10月26日

江戸の庶民

 元禄時代、江戸の庶民は、華やかな衣服を楽しむようになりました。すると幕府は「紅や紫、金糸銀糸などの衣装を着てはならない」との奢侈禁止令を発したそうです。町人たちは、やむなく茶や黒、鼠系統の地味な着物を着ました。
  しかし、それらの色に様々な変化をつけたそうです。それらを「団十郎茶」「水色鼠」など当時人気の歌舞伎役者や風月山水などから名前を取って、微妙な色合いを楽しみました。その数「四十八茶百鼠」という(吉岡幸雄著『日本人の創った色』)。使える色が制限されても、江戸の庶民は、豊かな色彩を生むたくましさがありました。  

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2012年10月25日

人間の力

 熊本県山都町にある通潤橋は高さ20メートルのアーチ橋です。築造は江戸時代。水の便が悪く、農業にも飲み水にも事欠く白糸台地で暮らす人々のために作られた水路橋です。
 深い渓谷に囲まれた白糸台地は豊富な川がそばにあるものの、台地の外を流れるため水を利用できませんでした。苦しむ人たちを見て、惣庄屋が台地の対岸から橋を架けて水を通す方法を着想しました。しかし、それには深い谷を渡す30メートルの橋が必要だった。だが当時の技術では20メートルが限界。どうするか。知恵と技術と執念の挑戦を開始。石工や民衆の力を借り、橋より高い台地へ水を送ることに成功した(山都町商工観光課)
 帚木蓬生氏の近作『水神』には同じ江戸時代、福岡の筑後川を舞台に、台地の灌漑のため堰と水路を築く5人の庄屋と農民の戦いが描かれています。全責任を担い、万一の時は5人が命を投げ出すと藩に誓約した。先の通潤橋でも石工の棟梁が決死の覚悟をしていました。この二つの史実には共通点があります。命懸けの決意、人々のためとの高い志、困難を克服する知恵と技術、民衆の団結です。歴史に刻まれる偉業には、こうした人間の力が光ります。

通潤橋
http://www.town.yamato.kumamoto.jp/ka/syokokankoka/kanko/tujyunkyo/tsujunkyo.jsp  

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2012年10月24日

与謝野晶子

 12月で生誕134年を迎える明治の歌人・与謝野晶子。彼女は『みだれ髪』などの文学活動はもちろん、女性の地位の向上に尽くしたことでも知られています。晶子の一番の功績は、女性が社会を動かす大きな力となる先見を示し、女性的な原理――平和、平等といった調和や安定、無駄な争いの否定などが社会には必要だ、と訴えた点といわれています。
 明治大学の齋藤孝教授は「晶子が与えた影響は、現代では想像もできないほど大きなもの」と指摘しています。女性が自由にものを言えない時代、「自ら恃むところを信じ、人間にとって大切だと確信するものを前面に押し立てて」日本を教育した、と(『代表的日本人』ちくま新書)  

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2012年10月23日

針桐(はりぎり)

 針桐(はりぎり)という名の木をご存じですか。もしも欅(けやき)や檜(ひのき)が木のエリートだとしたら、針桐は目立たぬ無名の実力者とでもいえます。
 針桐は木材としては栓(せん)と呼ばれ、古くから優れた家具用材として利用されてきました。針桐という名も、高級家具材の桐の代用として使われたからともいわれています。栓は軽くて白さが際立つ一方、木目が美しい木材です。
 しかし、その美しさゆえ、欅の代用品としても使われました。今では、合板が高級な「セン・プライウッド(合板)」として海外で高く評価されているそうです。代用ではなく、栓は栓としてその良さを生かせば、多くの人に愛されるのです。

針桐
http://www.weblio.jp/content/%E9%87%9D%E6%A1%90  

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2012年10月22日

情報は天然色

 組織では、いい情報は上に上がりやすいですが、悪い情報は上がりにくいものです。悪い情報が早く上がる組織は課題に即座に手を打ち、伸びていきます。
 行革審会長として改革を断行した財界人、土光敏夫氏に今、再び注目が集まっています。氏は生涯、現場主義を貫きました。工場のモーターや機械の音に耳を澄まし、その調子を言い当てることもあったそうです。それ故〝日本一の工場長〟のあだ名がついたほどです。
 上に上がってくる情報は「単色になりがち」と土光氏はいっています。本来の情報は天然色なのだが、途中であく抜きされてしまうからです。だから土光氏は「自らの足で現場を歩き、自らの目で現場を見ることだ。現場の空気を味わい、働く人々の感覚にじかにふれる」。それでこそ情報に「色」がついてくる。的確な判断ができる(『経営の行動指針』産業能率大学出版部)と。  

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2012年10月21日

人民の、人民による、人民のための政治

 「人民の、人民による、人民のための政治」とは、アメリカ第16代大統領リンカーンの不朽の名言です。これは1863年、南北戦争の激戦地ゲティスバーグで行った演説です。実は、その歴史的瞬間を収めた写真は一枚も残っていないそうです。
 答えは明快。あまりに簡潔だったため、写真班がレンズの焦点を合わせる前に、演説が終わってしまったのです。時間にして、わずか2分。冒頭の名言は、その結びの一言でした(本間長世著『リンカーン』中公新書)  

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2012年10月20日

予想外の結果に落ち込んでいても、何も生まれない

 iPS細胞(体のあらゆる細胞に変わる万能細胞)の生成に世界で初めて成功した山中伸弥教授。先日、ノーベル賞受賞が決定したことはご存知でしょう。しかし教授が、研究者の道へ踏み出した最初の実験は〝失敗〟でした。
 大学院時代、犬を使い血圧調整の研究に着手。予測では〝ある因子を投与すると血圧は下がらなくなる〟はずが、見る見る急降下。仮説は外れました。しかし教授は落胆する代わりに、目の前の現象そのものに心を奪われました。研究の面白さに目覚め、虜になったそうです。
 ノーベル物理学賞の益川敏英名誉教授の言葉が示唆に富んでいます。曰く〝予想外の結果に落ち込んでいても、何も生まれない〟(『「大発見」の思考法』文春新書)。  

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2012年10月19日

磨くこと

 15世紀の話です。ある宝石職人が雇い主の娘に恋をしました。雇い主は職人に「もしダイヤモンドが磨けたら」と無理難題を持ちかけました。ダイヤは、日本名が「金剛石」と言われるように、最も硬い石です。うまく磨けません。万策尽きた彼は、いくつものダイヤを投げつけました。すると、どうだろう?ダイヤ同士がぶつかって世界一の輝きが生まれました。
 これは「ダイヤはダイヤでしか磨けない」ことを発見したエピソードとされていますが、これは自分を磨くことにも通じます。  

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2012年10月18日

オレオレ詐欺

 息子や孫を装って電話をかけ、現金を振り込ませる「オレオレ詐欺」の手口が巧妙化しています。被害者も高齢者から若者層まで広がり、その7割以上が女性だそうです。
  例えば警察官を名乗るものがあります。「ご主人が事故を起こした。示談金を支払わないと交通刑務所に行く」と金銭を要求してきます。弁護士や上司、恩師など複数の人物が電話口に出たり、あらかじめ入手した名簿で名前を確認の上、親族を名乗るケースもあるという事です。
 警察庁では、不審な電話に対しては「自分から先に肉親の名前を言わず、相手に名乗らせる」「電話を切った後で、必ず身内等に相談し、事実確認する」ことを勧めています。さらに、警察官がいきなり電話で事件や事故当事者の家族に示談を勧めることはないので、不審に思ったら、すぐ警察に通報をと呼びかけています。  

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2012年10月17日

心配事や悩みは人生につきもの

 身も心も爽快な秋です。何をするにも気分がいい季節です。そんな「秋」ですが、その文字の下に「心」をつけると「愁」(憂い)となり、気分は一転します。
 心配事や悩みは人生につきもので、私が心のよりどころとしている日蓮大聖人の御書(創価学会版)にも「人間に生をうけたる人上下につけてうれへなき人はなけれども」(929ページ)とあります。人間は人生の途上、生きていくうえで、誰もが悩み事を抱えますが、受け止め方はさまざまです。時として悲観的になる人間の習性をこの御文に続く箇所で、こう述べられています。"病気になり、病状が重くなると、もうこれ以上の重病はないと弱気になってしまう"。
 同じ現実に向き合っても、なぜか前向きな人と後ろ向きな人がいます。問題は脳の中の回路のバランスだ、と指摘するのは脳科学者の茂木健一郎氏。茂木氏は「いろいろなことについて考え、感じるときのバランスを、しなやかに、やわらかなものにすれば自然に生きる力が湧いてくる」と語っています。  

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2012年10月16日

母を思う時

 『三人の宇宙飛行士』という絵本があります(ウンベルト・エーコ著、海都洋子訳、阪急コミュニケーションズ刊)。内容は、アメリカとロシアと中国が、同時に火星へロケットを打ち上げました。各国の飛行士は到着後、お互いを「信用できないやつ」と毛嫌いしていました。
 しかし、夜になると事態が変わってきます。暗黒の宇宙に浮かぶ地球を見て、彼らはホームシックになり、「お母さん」とそれぞれの言葉でつぶやきました。これを境にアメリカとロシアと中国の飛行士は、いっぺんに仲良くなり、その後、団結して困難に立ち向かっていった、と。
 全ての人に共通の事実――それは母から生まれたということ。母を思う時、人は優しくなれる。そして強くなれます。  

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2012年10月15日

激励

 『論語』の中で、弟子の冉求が師匠の孔子に、自らの真情を吐露しています。「先生の教えを喜んでいないのではなく、私の力が足りないのです」と。孔子は「力が足りない者というのは、中途でやめてしまうものだ。今、あなたは力が足りないのではなく、自ら力を限定してしまっているにすぎない」と励ましました。
 “自分にはできない”そう決めて、自身の弱さを肯定することは、往々にしてあることです。しかしこれは、やろうとしない自分への弁解ではないでしょうか。反対に、悩み苦しんで、努力を惜しまない。この“たゆみない実践”の先に、自分の本当の力も出てきます。そのために、温かい激励が必要です。  

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2012年10月14日

 私たちの住む地球は水の惑星ですが、実はほとんどが海水なのです。なんと南極・北極などの氷を除くと真水は水全体の約0・8%のみだそうです。
 今、この貴重な水資源が、灌漑や生活用水の使用量の急増で汚染・枯渇の危機にさらされています。わが国では考えられませんが世界の人口の4割が水不足に苦しんでいるそうです。「20世紀は石油をめぐる戦争でしたが、21世紀には水をめぐる戦争が起きるだろう」(世界銀行)との警告もあります。
 この水問題については、すでに世界水フォーラムなど国際的な取り組みが始まっています。日本の役割も小さくありません。なんと、蛇口をひねれば安全な水が出る日本ですが、実は「水の輸入大国」であるのです。理由は、わが国は、大豆・小麦・木材など大量の水を使って作られる農産物や工業製品を輸入しているからです。私たちの生活の変革は、水問題の解決にも結びつきます。  

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2012年10月13日

アラーム

 体調を崩しやすい季節の変わり目です。体が熱っぽかったり、だるさを感じたりしたら、早めに具体的な処置を施し、万全を期したいものです。
 誰もが無縁であることを願う「痛み」「発熱」「疲労」にも意味があるそうです。これらは体が異常を感知して警告を発し、防御を指令するメカニズムなのです。私たちは、この「3大生体アラーム」が働くおかげで、大事に至らず健康を管理することができるのです。
 体調だけでなく、仕事をはじめ、生活上の小さなトラブルやミスも、一種の「アラーム」と捉えることができます。それは大きなトラブルの前兆である場合と捕らえ、早めに具体的な処置を施し、万全を期したいものです。
  

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2012年10月12日

女性の“とっさの機転”

 女性の“とっさの機転”に救われた経験はないでしょうか。これは、人種隔離政策を撤廃した直後の、混乱期の南アフリカに留学していた男性の体験です。
 彼がいつもと同じようにバスの席に座ると、突然、隣の初老の男がナイフを突きつけてきました。日本人の彼に金を要求してきたのです。その情景を、そばに座る婦人は見逃しませんでした。彼女は考えました、ここで男を刺激すると騒ぎ出すかもしれない。そこで彼女は機転を利かせて、歌を歌い始めました。すると、瞬く間にバスの中は大合唱。ナイフを突きつけてきた当の男まで歌い出しました。“歌の力”が悪意をくじいたのです。彼は無事バスを降りることができたそうです。
 歴史を振り返っても、女性の機転と勇気ある行動によって人々が救われた例は数え切れない。特に「生命の危機」に対して、女性は鋭敏な感覚をもっています。  

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