2012年01月16日

海の沈黙

 ヴェルコール作『海の沈黙』は、フランス・レジスタンス(抵抗)文学の白眉です。この映画化作品が一昨年、日本でやっと公開されました。フランスでは1949年に映画が公開されています。
 映像は、際だって見事です。モノクロームに、鮮やかな光と影のコントラスト、後に「死刑台のエレベーター」や「恋人たち」、「太陽がいっぱい」などを撮った、名手といわれたアンリ・ドカエのカメラです。
 舞台は、ナチス占領下のフランス――。タイトルに海がありますが、海は出てきません。海とは、実際の海ではなく、人間性を失わず、権力に抵抗する人たちの、限りなく広がる心の海です。
 
 ドイツ人の将校が、ある一家を訪れます。礼儀正しく教養豊か。フランス文化に魅せられてきたという。が、この一家は侵略者に、どうして心を開くことなどできるだろうか。一家は、深い沈黙をもって応じる――。
 やがて将校は、激戦の東部戦線へ転任に。別れの日、娘がはじめて口を開く。「アデュー(さようなら)」と。この言葉は、限りなく「ボンジュール(こんにちは)」に近い、ひと言ではないだろうか。

海の沈黙
http://melville.nomaki.jp/lesilencedelamer.html  

Posted by mc1460 at 13:24Comments(0)TrackBack(0)つぶやき