2013年02月26日

父さんからの手紙

 少女は父さんからの手紙を、全部覚えようとした。ナチス占領下のオランダ。ユダヤ人の父娘は、離れ離れで息を潜めて暮らしている。抵抗組織を通じ、手紙のやりとりが続きました。父からの手紙は、証拠を残さぬよう、読んだら焼き捨てる約束でした。だが、灰になったはずの手紙は奇跡的に保管され、一冊の本になった(『父さんの手紙はぜんぶおぼえた』母袋夏生訳、岩波書店)
 雪が解け出す頃。うつむいて白い花を咲かせ、春を告げる待雪草に少女は目を奪われる。感動をそのまま綴ると、父はこう返した。「きみのいうとおりだ。とてもひかえめな花です。じっくり観賞すると、おどろくほど美しい。おくの深いところに黄金の心をもっている。待雪草のそういうところを、人間はお手本にできるね」と。
 冬の大地に咲く花は、神々しいほどに美しい。寒風を選んで命を燃やす姿に、勇気をもらい、やがて来る春の暖かさを思う。「黄金の心」とは、どんな時にも希望をつくり出す、しなやかさと強さの異名でしょうか。  

Posted by mc1460 at 11:12Comments(0)TrackBack(0)つぶやき