2012年09月04日

弟子の境涯

 哲学者ソクラテスは著作を一編も残さなかったそうです。しかし、その思想を2400年後の私たちが鮮明に知りえるのは、不二の弟子プラトンが師匠の真実を綴り残したからなのです。傑作『ソクラテスの弁明』『クリトン』では、死刑をも恐れず己の信念を貫いた師の姿が、生き生きと描かれています。岩波文庫版の訳者・久保勉氏は、ソクラテスの「偉大な人格」「精神の本質」をえぐり出したプラトンの驚異的な筆致について、「字句以上の真実」に迫るものと絶讃しています。
 一方、師の言動を別の弟子が記録した本に、クセノフォンの『ソクラテスの思い出』があります。しかし、この書は「充分にその師の本質と精神とを捉え得たものとはいわれない」(久保氏)。それは、師への理解が表面的なものにとどまっていたからといわれています。
 弟子の境涯で、師匠の教えや姿は異なったものに映ります。師の「真実」に迫れるか。師の「真意」を理解できるか。それはひとえに弟子の側にかかっています。  

Posted by mc1460 at 11:00Comments(0)TrackBack(0)つぶやき