2016年10月23日

さびた状態

 詩人の吉野弘さんが、製鉄所と造船所を見学した折のこと。はたと気付いたことがあったそうです。“鉄の文明とは、さびたがっているものを、さびさせないで使おうとすることだ”と(『くらしとことば』河出文庫)
 自然界の鉄は、酸素と結合し、さびた状態で存在します。それが、鉄にとっては安定しているためです。そのため、身の回りの鉄も、放っておけば自然とさびていきます。防ぐには、表面を磨くなどの作業が必要となるのです。  

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2016年10月22日

飲水思源(いんすいしげん

 中国に「飲水思源(いんすいしげん)」という言葉があります。これは水を飲む時に井戸を掘った人に思いを馳せる、人から受けた恩を忘れてはいけない、などの意味です。
 静岡県在住の中国人画家・王伝峰さんは、挿花芸術の作品集『餘香』を、講談社から出版しています。これは日本の著名な写真家と建築家の全面協力で実現した〝日中友誼の芸術書〟です。
 24年前から富士山の麓で暮らす王さん。中国の悠久の歴史に育まれ、中日両国の文化を吸収して「今の自分」があると胸を張っています。独自の風格を持つ作品は、2002年の日中国交正常化30周年記念切手、08年の日中平和友好条約締結30周年記念切手にも採用されたそうです。  

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2016年10月21日

バック・トゥ・ザ・フューチャー

 覚えて見えますか。昨年の10月21日、この日が、ちょっとした話題になりました。
 大ヒットしたSF映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の2作目で、主人公らが30年後の未来にタイムスリップする際、設定したのが、この日だったからなのです。あらためて映画の2015年のシーンを見ると、指紋認証や顔認証システムなど、今では実用化されたものが多く登場しています。
 未来予想は、はずれる場合も多いですが、現実になった時の驚き、感動は大きいと思いました。  

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2016年10月20日

自分を進化させた

 プロ野球日本シリーズが22日に開幕し、北海道日本ハムファイターズと広島東洋カープが対戦します。
 現役時代、シリーズに5回出場し、「20世紀最後の200勝投手」として野球殿堂入りした元広島の北別府学氏が語った話。「プロに入ると、自分流の考えや経験が通用しなかった。球速で勝てないと自覚し、制球力を必死で身に付けた。壁にぶつかるたびにプライドを捨て、技術を磨き、己を高めた」と。
 やがて「針の穴を通すコントロール」と仰がれる大投手に成長しました。氏が語っています。「絶えず結果を出すために、絶えず自分を進化させた」と。  

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2016年10月19日

一つの公式

 アウシュビッツの強制収容所を体験したオーストリアの精神科医フランクルは一つの公式を示しました。
 「絶望=苦悩―意味」(絶望とは意味なき苦悩である)と。この公式に衝撃を受けた全盲ろう者の福島智さん(東京大学教授)は考えました。公式から「意味=苦悩―絶望」と導ける。絶望の反対は「希望」だから、こう言えるのではないか。「意味=苦悩+希望」(苦悩の中で希望を抱くことに人生の意味がある)と(『ぼくの命は言葉とともにある』致知出版社)  

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2016年10月18日

アンパンマンの歌

 アンパンマンの作者、故・やなせたかしさんは詩人でもあり、多くの歌を作りました。アニメの主題歌「アンパンマンのマーチ」も自ら作詞しています。この歌は、子どもからお年寄りまで幅広く愛されてきています。
 実はテレビで流れているのは2番の歌詞で、1番はあまり知られていませんでした。その〝幻の1番〟が、東日本大震災の後、広く歌われるようになりました。
 ある日、被災地でラジオから流れたフルコーラスの〝アンパンマンの歌〟。1番は「そうだ うれしいんだ 生きる よろこび たとえ 胸の傷がいたんでも」と始まり、「なんのために 生まれて なにをして 生きるのか」と続いています(JASRAC出1313066―301)
 やなせさんが〝世界最弱のヒーロー〟と呼んだアンパンマンの強さとは「傷つくことを恐れない強さ」。何度も立ち上がる姿を歌った歌詞が被災者を勇気づけたのです。  

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2016年10月17日

機械的な「連絡」

 自分が思ったことを、他者も同じように受け取るとは限りません。この小さな意識の差が、やがて、いさかいに発展する場合もあります。史書『吾妻鏡』は、こんな出来事を伝えています。
 鎌倉・鶴岡若宮の社殿が棟上げし、源頼朝が大工の棟梁へ馬を贈る事にしました。その馬を引く役を源義経に命じました。だが彼は「折悪しく下手を引く者がいない」と、自分と共に役を務めるのに適した者がいないと言いました(五味文彦・本郷和人編『現代語訳 吾妻鏡』吉川弘文館)。頼朝は義経が「役目が卑しいものだと思い、あれこれと言って渋っているのだろう」と激怒しました。
 〝自分は一般の御家人とは違う〟と、特別扱いを期待する義経。一方、頼朝には、同じ源氏でも主は自分であり、主従のけじめをつけるべきではないかとの思いがありました。2人のすれ違いは対立へ発展していきます。事を大きくした原因の一つは、対話の欠如にありましょう。
 プラトンは「言論嫌いと人間嫌いとは同じような仕方で生じてくる」(岩田靖夫訳)と。真情を率直に語り合う言葉の不足は、理解の芽を摘み、猜疑心を育て、人間不信へとつながります。
 メールはもちろん、顔を合わせても、機械的な「連絡」に終始すれば、心にずれが生じてきましょう。腰を据えて、思いを言葉にする。そこに信頼は生まれます。  

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2016年10月16日

の弟子

 亡くなってからずいぶん経ちますので、この名前を知る人は少ないと思いますが、俳優の笠智衆氏がサインを頼まれたそうです。快諾した氏は何の迷いもなく、「小津先生」と大きく書きました。そして、「の弟子。笠智衆」と続けたそうです。
 サインの依頼主だった作家の久世光彦さんが自著『触れもせで』(講談社)に紹介しています。笠氏は、そう書くことで自分に誇りを持ち、自戒もしました。“私はカメラの前ではなく、師と仰ぐ小津安二郎監督の前で演じるのだ”と。常に師匠と一緒だ、との思いが名優の座を築き上げたのでしょう。  

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2016年10月15日

その誤りを悟ってから

 NHK連続テレビ小説のモデルで一躍有名になった広岡浅子は、60歳を超えるまで、青年に苦言を呈するだけだったといわれています。だが「その誤りを悟ってから」は「自分も若い人々とともに進もう。死ぬまで進んで止まない態度をもって、わが人格を築きたいと願うようになりました」と述懐しています(『超訳 広岡浅子自伝』KADOKAWA)  

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2016年10月14日

未知の場所へ

 種から育てた野菜の多くは、毎年、同じ場所に植えると、虫や病気に侵されて「連作障害」を起こすそうです。その理由は、植物は、自らは動くことはできないが、風に乗せたり、昆虫や動物にくっつけたりして、〝わが子〟である種を未知の場所へ、後継者として送り出すためだそうです。  

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2016年10月13日

一時の、一つの「顔」

 思い込みや印象が、いつしか事実のように定着してしまう例は多いものです。
 18世紀のフランス革命。断頭台の露と消えたルイ16世は決して暗愚の王ではなかったし、マリー・アントワネットも浪費専門の王妃だったわけではない。フランス文学者・安達正勝さんの新著『マリー・アントワネット』(中公新書)に、あらためて教えられます。
 ナポレオンは見ず知らずの人が自分に熱狂する姿を見て語ったという。「あの連中は余を知りもしなければ、一度だって余を見たことすらない。ただ彼等は余の噂を聞いていただけだ」「こういった不思議なことは何処の国にも、何時の時代にも、男の中でも女の中でも繰返されるのだ!」(ラス・カーズ著、難波浩訳『ナポレオン大戦回想録』改造社)
 人にはいろいろな「顔」があります。一時の、一つの「顔」だけを見て、相手を判断するのは危険です。直接、会って話さなければ、相手の本当のことは分からないのです。  

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2016年10月12日

1行の文

 それは、たまたま目にした小さな新聞記事だったそうです。内容は、日本人宇宙飛行士を募集し、数千人の応募を見込んでいたが、実際、受け付け初日の申し込みは1通だった、というものです。
 それを読んだ女性は、何となく気になり、記事を切り抜いた。読み返すうちに興味が湧き、〝取りあえず応募してみよう〟となり、ついには日本人女性初の宇宙飛行士となりました。
 この女性、向井千秋さんを宇宙へいざなったきっかけは、新聞の片隅に載った記事でした。小さな記事が、1行の文が人生を大きく変えることがある――これが言葉の力です。  

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2016年10月11日

原点を持つ人

 かつて、創価大学の吹奏楽部が、都のコンクールで金賞を獲得したときのこと。朗報を聞いた創立者の池田SGI会長が、心づくしの励ましを贈った。その相手は、同部を創部し、初代部長を務めた、10年前の卒業生でした。
 むろん金賞の栄冠は、現役部員らの努力のたまものではある。だが、その栄光も、草創を築いた先輩たちの労苦があってこそ。創立者の振る舞いを通じて、現役生たちは、「原点」に思いを致し、音律を磨く一層の決意を固めたに違いありません。
 輝く栄光の陰には必ず、人知れず応援し、支えてくれた人の存在があります。「原点を持つ人」とは、この〝今の自分があるのは誰のおかげか〟を知る「感謝の人」のことです。「恩を知ることを最高とし、恩に報じていくことこそ第一としてきた」(創価学会版・御書491㌻、通解)の御文をかみしめたいものです。  

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2016年10月10日

1%の奇跡

 「1%の奇跡」。これは医師で作家の鎌田實氏の言葉です。人生の1%でも誰かのために生きれば、生きがいは深まり、長寿にもつながる。そんな思いが広がれば社会も良くなる。1%の変化が奇跡を起こすと。納得!!  

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2016年10月09日

「土台」が必要

 釈迦が説いた仏典の話。昔、一人の富豪がいました。3階建ての立派な家を見て自分もほしくなった。「同じような家を造ってほしい」と、大工に注文しました。大工は土地を測り、土台づくりから始めた。それを見た富豪は言ったそうです。「私がほしいのは下の部分ではない。上の部分だ。最上階から造れ!」。これを聞いた人は皆、「下の部分を造らずして、どうして上の部分が造れようか」と笑った(百喩経)。
 何事も「土台」が必要です。  

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2016年10月08日

10月8日は「木」の日

 「十」と「八」を重ねて、10月8日は「木」の日だそうです。青森県の名のごとく、青々と輝く森林を見て、思います。”人は木に深く学ぶべきだ”と。
 同県の木はヒバ。秋田の杉、木曽の檜と並ぶ日本三大美林の一つです。”100年育って一人前”というヒバの若木は、風雪に耐え、じっくりと成長する。促成でなく、熟成ゆえに、木目は美しく、耐久性を持つのです。  

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2016年10月07日

社内運動会

 秋の運動会シーズンですね。近年、企業でも「社内運動会」を催すところが増えているそうです。運動会の運営を請け負う、企業やNPO法人の活動もメディアで取り上げられています。
 社内運動会と聞くと、昭和の香りが漂いますが、競技や応援などに共に汗を流した体験を共有することが、一体感を高める機会になるとして再評価されています。
 裏を返せば、メールでの連絡が主流となり、顔を合わせた対話が不足して、人のつながりが希薄になった表れともとれます。
  

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2016年10月06日

ピア・サポート

 福祉や医療のさまざまな分野で、「ピア・サポート」という言葉が注目されています。「ピア」とは英語で「仲間」「同輩」などの意味で、上下関係のない、「同等」「対等」の仲間による支援を「ピア・サポート」と呼びます。
 病気や障がいを経験した人が、同じ悩みを抱える他の当事者を支える。その周りの家族や友人による「支えの広がり」も、広い意味での「ピア・サポート」です。福祉や医療の専門家は、その広がりの「一員」として支えています。
 「ピア・サポート」の基本的な考えは、「全ての人が回復することができる」ということ。「回復」といっても、病や障がいから回復するという話だけではありません。病や障がいは人生の一部。それ以外に、人には多くの可能性があります。病や障がいがあっても、希望や夢を持って生きていけるはずです。その姿が、どれほど他の人たちのサポート(支え)になり、希望になるか考えてみたいです。  

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2016年10月05日

凜とした気品

 公園で色付いた落ち葉やドングリを見かけました。いつの間にか秋の気配が濃くなってきたことに気付かされました。
 なぜ葉の色が変わるのか。それは葉の〝老化〟によって起こるとされます。日照時間がだんだんと短くなり、気温が低くなると、葉の細胞内でさまざまな変化が起こる。全体として葉の働きが弱くなり、色素が分解されたり、新たに色素が合成されたりして、黄や紅に変わるという。
 〝老化〟とはいえ、季節の移ろいに応じ、美しく色付き、輝きを増していく姿には、凜とした気品がありますね。  

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2016年10月04日

相手にとって

 学校のテストで思うような点数が取れなくなり、自信を失いかけていた中学3年の女子生徒がいました。使っていたテキストは、カラーのイラストや図表をふんだんに取り入れたものでした。助言を受け、教材を白黒の問題集に変えたら、あれよあれよという間に点数は高いレベルに戻った(鈴木正樹著『十人十色の子どもたち』大隅書店)
 耳で聞いて理解するのは苦手でも、目で見て覚えるのは得意な人もいれば、その逆の人もいます。カラフルな教材を好む子もいれば、かえって勉強しづらくなる子も。説明の仕方や内容が〝分かりやすい〟かどうかには、「相手にとって」という前提が付くのです。  

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