2016年12月07日

水木さんの使命感

 「動物園の動物を見ると、なんとなく『大変だろうなァ』と思いながら、じーっと動物の目を見る習慣がついてしまった」。と語っていたのは漫画家の水木しげるさん。かつて初年兵として、南方の激戦地に送られた自分を重ねたのです。
 満足な食事もなく、毎日古兵に殴られ、生還しても「なぜ死ななかった」となじられる。戦争の不条理への怒りが、水木さんの創作のエネルギーになりました。〝妖怪物〟と並んで、〝戦記物〟で戦後漫画史の一時代を築いたのです。
 その集大成の一つが、自らの戦場体験を赤裸々に織り込んだ『総員玉砕せよ!』(講談社文庫)。水木さんの分身・丸山二等兵が、銃撃され死んでいくラストは圧巻です。丸山はつぶやく。「ああ、みんなこんな気持で死んで行ったんだなあ」「誰にみられることもなく、誰に語ることもできず……」戦場に散った仲間の声なき声を刻み残すことが、水木さんの使命感だったのです。  

Posted by mc1460 at 11:53Comments(0)TrackBack(0)つぶやき