2013年04月11日

没後103年

 最初は農民のようにも見えたが、すぐに分かった。「ああ、あなたは先生」。彼が握った、その手は大きく、温かかった。作家の徳富蘆花がロシアで文豪トルストイと出会った情景だ(『蘆花全集7』)
 舞台は日露戦争後の激動期です。執筆活動に行き詰まった蘆花は、トルストイの思想に共感を深め、“ひと目、会いたい”と単身ロシアに。決して反戦論者ではなかった蘆花を、文豪は歓迎しました。トルストイとの平和、宗教、文学など多岐にわたった語らいは、蘆花の生涯で、最も幸せな思い出に。帰国した彼は非暴力主義を表明し、新たな言論戦を開始しました。
 彼、徳富蘆花だけではない。トルストイのもとには世界中から友が訪れ、皆、語らいの中で勇気を奮い起こした。友情の対話が人間を結び、平和の連帯を拡大していったのです。
 19世紀には夢物語と嘲笑された、文豪トルストイの非暴力主義。その精神を謳った著作は、没後103年を迎える現在も読み継がれ、混迷の21世紀を生きる民衆に希望の光を放っています。

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