2012年04月23日

心の財

 わが国を代表する教育者・新渡戸稲造博士は第一高等学校の校長時代、課外講義を週1回2時間、全校生を対象に連続で行ったそうです。教材は、世界的名著ばかりでした。ゲーテの『ファウスト』、カーライルの『衣服哲学』、ミルトンの『失楽園』など広範囲に広がっていました。
 校長という激務の中での講義は「一高生に対する愛情が最も現実的具体的に現われた」行動の一つであり、先生の校長時代に一高生だった事は「大きな幸福」――『衣服哲学』の講義を懇願した山田幸三郎氏(独文学者)は卒業60年後、こう述懐しています。
 「数世紀の試練をへた書物の中にこそ、困窮にあっても富を見出し、縄目をうけても自由を見、病にあっても健康を、悲しみにあっても歓喜を、孤独にあっても交わりを見出すのである」(『新渡戸稲造全集 第20巻』教文館)。新渡戸博士のこの言葉通り、講義は次代を担う青年の「心の財」となったことでしょう。

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