2018年11月25日

英知の言葉

 本年は文豪・夏目漱石の生誕151周年です。彼の作品を愛読した一人に、中国の文豪・魯迅がいます。
 魯迅は青年時代、日本へ留学しました。その間、次々と漱石の著作を買いそろえたのです。新作の小説が新聞に連載されると、わざわざ新聞を購読。含蓄に富んだ漱石の文章は、青年・魯迅の心に、少なからず影響を与えたことでしょう。
 後に魯迅は、学んでいた医学を捨て、文学の道を志しました。「日本に留学していたころ、私たちはある漠然とした希望を持っていた――文学によって人間性を変革し、社会を改革できると思ったのである」(蘆田肇・藤井省三・小谷一郎訳「域外小説集・序」、『魯迅全集』12巻所収、学習研究社)――この言葉の通り、魯迅は人民の精神を変革するための作品を書き続けました。舌鋒鋭く社会悪をえぐり出し、青年に希望の光を送ったのです。
 古典や名著といわれる書物は、限りない英知の宝庫です。そして、その宝を見いだすのは、今を生きる読み手の「境涯」にほかならない。書き手と読み手の時空を超えた「共鳴」であり「共同作業」であるのです。
 本をどこまで深く読めるかは、読み手が周囲の世界や自身の人生にどこまで深く向き合っているかで決まるともいえましょう。絶えざる挑戦と向上の日々でこそ、英知の言葉は生き生きと胸に響いてくるのです。

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