2018年07月11日

未来が開けた

 幕末から明治の大名人といわれた講釈師の神田伯山は、名奉行・大岡越前の創作噺「天一坊」で人気を集めました。「伯山は天一坊で蔵を建て」と川柳に詠まれるほどで、80人以上の弟子がいたといわれています。
 ある日、外出した伯山が、お供の末弟子に言いました。「おい、そばを食おう」。ところが店に入って注文したのは、自分のそば1杯。不審げな弟子に、伯山が一言。「食いたかったら芸を勉強しなよ」と。
 弟子は家に帰るなり、父に不満をぶつけた。すると父は、師匠の家に向かって両手をつき、感謝を。そして“今は一番下だが早く一人前になれ”という励ましなのだ、と。心を入れかえ稽古に励んだ弟子は後年、先輩たちを追い越し、2代目・神田伯山となったのです(三遊亭圓生著『浮世に言い忘れたこと』小学館文庫)
 師の言動を恨んだままでいたら、後の大成はなかったかもしれない。それが父によって師の深い思いに気付かされ、弟子の心は変わったのです。出来事そのものは変わらなくても、「捉え方」が変わったことで、未来が開けたのです。

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