2017年05月06日

怖かったよ!

 27年半の投獄に耐え、南アフリカの人種隔離撤廃を実現したマンデラ元大統領。その足跡を知り、悠然たる笑顔に接すれば、完全無欠の勇者に思えてきます。
 作家のR・ステンゲル氏による元大統領の評伝『信念に生きる』(英治出版)に、1994年の体験が紹介されています。元大統領を乗せた飛行機が故障し、大事故の危機に陥る。だが元大統領は、同行者に事情を聞くと、あとは新聞を読みふけり、安着すると、何事もなかったように笑顔を振りまいたそうです。
 しかし、空港で氏と落ち合うと、目を見開いてこう言ったのだ。「怖かったよ! 空の上で身の縮む思いだった!」と。権力の弾圧と戦った日々を、元大統領は振り返ります。「私は、己の恐怖心を外から悟られないようにするために、ありとあらゆる方法で恐怖心を克服しようと努めてきた」(前掲書)
 論語から生まれた「敬遠(けいえん)」という言葉があります。敬意を払っても、自分から遠い存在と見る限り、糧とはならない。だが、勇者とは「臆病と戦った人」であると知れば、尊敬だけでなく、自分もその生き方に近づこうという勇気が湧くのです。

この記事へのトラックバックURL

http://asunimukatuye.mediacat-blog.jp/t122063