2017年03月24日

対話上手とは聞き上手

 「聴く」という字には「耳」と「目」と「心」が入っています。民俗学者の六車由実さんの、介護の現場に入り、その体験をつづった著書『驚きの介護民俗学』(医学書院)を読んだことがありますか。
 六車さんは、認知症の人に話を聴き、その人の「思い出の記」を作成しました。ある研究会で、その取り組みを紹介すると、驚かれたという。認知症の人の言葉は、脈絡がなく、意味のないものと思われているからだろう。
 だが六車さんは、そうした先入観を捨てて、真正面から言葉を受け止めることにした。すると「散りばめられたたくさんの言葉が一本の糸に紡がれていき(中略)その人の人生や生きてきた歴史や社会を織りなす布が形づくられていく」と、六車さんは綴っています。
 “この人をどうにかしよう”という思いばかりが先行すると、その気負いが邪魔をして、相手の言葉は心に入ってこない。“この人を知ろう”と決めて、素直に相手のありのままの言葉に耳を傾けるとき、心に見えてくるものがあります。
 話すことが苦手と思っている人も、相手の話をじっくり聴くことはできるはずです。対話上手とは聞き上手。必要なのは誠実な「心」であり、巧みな話術は、必ずしも必要ないのです。

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