2014年10月15日

激しい非難

 「まもなくわたしは立ち去るだろう。だが後代への関心は残るだろう」(篠田一士訳)。これは歴史家トインビー博士の詩「世を去るにあたって」の一節です。
博士が苦悩に直面したのは壮年期でした。長男の死、前妻との離別、二男、三男との疎遠――精神分析医の治療さえ受けた50代の苦難を乗り越え、研究に精励したのです。
そして、1954年、大著『歴史の研究』全10巻が完結。しかし、文明中心から高等宗教中心へ、思考の重心が移った革新的史観に、激しい非難が渦巻いたのです。
 トインビー博士は30年におよぶ大仕事を終え、安どする間もなかった。激しい非難に負けないで7年後、博士は反論の著作を刊行しました。「私を攻撃した批判を直接私の手でいちいちとり上げて片づけたために、心理的にはかえってサッパリした」(『現代人の疑問』黒沢英二訳)。以来、「20世紀最高峰の歴史家」の名は不動になったのです。


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Posted by rolex hommes at 2017年09月25日 21:24