2013年04月23日

方程式

 ホテルに到着し、チェックインを済ませ、スタッフが部屋まで荷物を運ぶ。そのわずか数分間が、「そのホテルのすべての印象を決定する」。大手商社の創業者を祖父に持つ洋画家の益田義信氏が、自著『さよなら巴里』(三修社)に記していました。
 ならば、ホテルに着いた客が最初に出会うドアマンは、ことのほか、その印象を左右することになることでしょう。創業120年余のある東京のホテルでは、ドアマンが30分ごとに白手袋を交換するそうです。客の荷物を汚さないため、などが理由のようですが、人は見ていないようで見ています。指先に宿った信念を。今日の伝統と信頼を築いたのは、この「30分への執念」の積み重ねでもあることでしょう。
 ともすれば、「次々と訪れる客への対応に忙しい」などと、手袋交換の「マニュアル」をなし崩しにする理由はいくらでもあります。だが、時々の判断で安易に変わるものを信念とは言いません。状況の変化を理由にしない「変わらないことへの誇り」こそが、偉大なものを作り上げる。これは、万般に共通する方程式です。

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