2017年03月26日

活動のエッセンス

 詩人の大岡信氏が、京都の染色家の仕事場を訪ねた時の話です。桜色に染まった着物を見た。淡いようでありながら、燃えるような強さを内に秘めた、その美しさに目を奪われたそうです。
 「この色は何から取り出したんですか」。大岡の問い掛けに、染色家は「桜からです」と答えました。だがそれは、花びらではなく、樹皮から抽出した色だったのです。しかも染色家によれば、その桜色は一年中、取れるものではなく、桜の花が咲く直前にしか抽出できないと。
 桜は木全体で最上のピンク色になろうとしている。花びらは、樹木全体の活動のエッセンスの一端が姿を現したものである――。この桜のエピソードを通し、大岡氏は“言葉の世界も同様ではないか”と頭によぎった、という(『ことばの力』花神社)
 発せられた一語一語を花びらに例えるなら、樹木全体は、その人自身であり、生きてきた人生そのものといえるでしょう。その全てを分かることはできないとしても、誠実に相手の言葉に耳を傾け、言葉の奥にあるものに、思いをはせたいものです。

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