2016年06月14日

皇帝を裏切った人間たち

 ナポレオン最後の決戦「ワーテルローの戦い」から18日で201年になります。ユゴーはこの古戦場を訪れ、『レ・ミゼラブル』の一編を費やして、戦の結末を描きました。皇帝の敗北を歴史の必然としながらも、文豪は、英国のウェリントン将軍でもプロイセンのブリュッヘル元帥でもなく、負けた皇帝の一近衛兵カンブローヌこそ勝者と書いたのです。ユゴーならではの民衆史観である。
 戦いの大勢が決した時、勇戦の近衛兵に敬意を表し、連合軍が降服を呼び掛けます。するとカンブローヌはただ一言、こう答えるのだ。「くそっ!」と。皇帝と共に落日の運命を引き受け、その積年の恩顧に報い、殉じようとする無名の兵・カンブローヌ。そこにユゴーは極限の勇気、精神の高貴さ、すなわち「人間としての勝利」を見たのです。ユゴーは、それを描くことによって、すばやく時流におもねり、皇帝を裏切った人間たちを見下ろしたのでしょう。

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