2016年04月05日

本心からの言葉

〝プレゼン術〟なる説得の技法が世に花盛りですが、技巧を凝らしても空疎な話もあれば、難しい表現は何もないのに、心を打つ話もあります。
 たとえば、テレビの映画番組で長く解説者を務めた水野晴郎さん。名作「シェーン」に感動して、思わず口にした「いやあ、映画って本当にいいもんですね」。思いをそのまま表したこの言葉が視聴者を引きつけ、水野さんの決めゼリフになりました。
 台本をもとに演じる役者にも、似たことがいえます。名優・笠智衆さんの、淡々としながら、人の心に染み入る演技について、同じ俳優の小林薫さんが言っていました。「言葉になる以前のところは、無理にドラマチックに演じようと考えなくても、そこに自分が身を置けば自ずと出てくるんですよね」と。
 人の心を動かすために、最も大事なのは言葉の巧みさではない。混じり気のない、本心からの言葉であるかどうか。評論家の加藤周一さんの言にこうありました。「ほんとうに信じていることと、信じていると信じようとしていることとは、違う」と(『羊の歌』岩波新書)

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