2015年10月31日

石工の話

 民俗学者の宮本常一氏が、ある山地で、護岸工事のために石垣を組む石工に話を聞いたそうです。冬の川の中で行う作業には、泣くに泣けないつらさがある。田のあぜの石垣などは、村人のほかに見る人もいない。それを、心を込めて築くのはなぜか、石工は話した。自分の築いた石垣を目にする機会があったら、誇らしい気持ちになる。他の石工が来て、自分の石垣を見れば、ほかの家の石垣を築く時、いい加減な仕事ができなくなる――。
 「結局いい仕事をしておけば、あとから来る者もその気持ちをうけついでよい仕事をしてくれるものだ」。以来、宮本氏は、石垣を注意深く見るようになったという(『宮本常一著作集44』未来社刊)誰が見ていようがいまいが、自分で納得できる仕事を、真面目に、丁寧に積み重ねる。それがおのずと、他の人の見本になっていく――人生も、この石工のようにありたいものです。

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