2014年06月25日

世阿弥

 能の大成者・世阿弥に「鵜飼」という作品があります。鵜使いの漁師にまつわる物語です。
 当時の仏教は、魚を取ることを「不殺生戒」を破る大罪としており、この作品では、鵜使いは亡霊となり、地獄の責め苦にあえいでいます。取った魚は調理され、高貴な身分の人に献上される。当時は、魚や鳥を取る人を「賤民」と差別し、さらに「殺生の罪」を着せるが、それを食する「貴人」に罪はない、とした。
 世阿弥は、その矛盾を切々と描写しています。そこに、旅の僧が登場する。僧は、鵜使いに同苦し、法華経をもって救済する。世阿弥には、ほかに、阿漕浦の漁師を扱った「阿漕」。善知鳥という鳥を取らえる猟師を扱う「善知鳥」の2作品があり、構成も似ています。
 いずれも、当時、仏教が「堕地獄」とした人々をこそ、本来、仏教は救うべきではないか、との思いに満ちている作品です。

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