2013年05月23日

賞を目指す

 漫画家・手塚治虫氏が不遇を極めた時期の一つは、それまでの“手塚ブーム”が過ぎ去った昭和48年、自ら設立した会社が倒産した時です。作家の大下英治氏は当時、週刊誌の記者として手塚氏を取材しました。失意のコメントを予想しましたが、手塚氏は普段通りに熱っぽく“明日から漫画賞を目指して頑張ります”と語りました。すでに自身の名を冠した賞がある大御所の言葉に、大下氏は驚嘆したそうです(大下英治著『手塚治虫――ロマン大宇宙』講談社)
 “賞を目指す”といっても、手塚氏は、いわゆる名誉栄達を欲した訳ではありません。“漫画の神様”との称賛に甘んじることなく、常に新しい分野に挑戦し、読者の支持を得られているかを、厳しく自身に問い続けたのです。この後、『ブラック・ジャック』『アドルフに告ぐ』など、氏の代表作が誕生しました。
 

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