2017年07月11日

どうしても作り出せなかったもの

 発明王のエジソンは、どうしても作り出せなかったものが二つある、と対談で言っています。「一つはダイヤモンドで、いま一つは真珠です」と。
 その対談相手だった御木本幸吉氏が、世界で初めて真珠の養殖に成功したのは1893年(明治26年)の7月11日。数年の努力を一夜で水の泡にした赤潮や、周囲の嘲笑や無理解といった幾多の苦難を乗り越え、真珠の養殖は不可能という通説を覆しました。
 日頃、御木本氏は、「あなたほどの人になると、恐いもの知らずでしょう」と言われると、「いやいや、わしの恐いのは小学生の生徒です」と答えるのが常だったという(永井龍男著『幸吉八方ころがし』文春文庫)。未来ある人間に無限の可能性を見いだすところに、氏の慧眼が示されています。  

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2017年07月10日

わずか100分の1秒

 オリンピックの話です。1896年の第1回アテネ大会以来、続いている競技の一つに重量挙げがあります。
 重量挙げは体重制の競技で、バーベルを一気に頭上に引き上げ、立ち上がる「スナッチ」と、一度肩まで上げて立ち上がり、反動を使い頭上に差し上げる「クリーン&ジャーク」の2種目を、それぞれ3回ずつ行います。挙げた重さが同じ場合、体重の軽い選手の勝ちになるので、体重を10グラム単位で調整するという。己との極限の戦いでもあるのです。
 重量挙げ女子日本代表の監督の三宅義行氏は語っています。「特に重要なのは、スナッチ一回目の最初の一・五秒です」と。1回目を失敗すると、それ以降、相手との駆け引きができず、勝負にならないからだそうです。4年間の苦労が、わずか1・5秒で決まる。勝負の厳しさを垣間見る思いがします。
 陸上競技や競泳など、五輪で、わずか100分の1秒で勝敗が分かれる競技は多くあります。その一瞬のために、精神面も肉体面も、あらゆる準備を重ねて臨む。だからこそ、喜びも感動も大きいりです。  

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2017年07月09日

キンシャサの奇跡

 “まさか”が現実になった舞台はアフリカのど真ん中でした。老いたモハメド・アリが、若き無敗の王者フォアマンを倒した、ボクシングの「キンシャサの奇跡」です。
 沢木耕太郎氏の自伝的紀行『深夜特急』に、中東の子どもたちが街頭テレビに群がり、アリの勝利に熱狂する場面が印象的に描かれています。黒人差別と戦い、ベトナム戦争の徴兵を拒んで王座を剝奪されたアリ。ふてぶてしいまでの強気の言動に眉をひそめる人もいたが、彼のそうした態度は常に、自分より強い存在に向けられました。
 権力を恐れない。権威に卑屈にならない。だから弱い者、虐げられた者ほど、アリを英雄と慕っています。  

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2017年07月08日

最後の一手

 仕事や勉強などで、“もう少しで終わる”と意識すると、効率が落ちることがあります。物事が達成できていないのに、“ゴールが見えた”と思うと、脳の血流が落ち、働きが鈍るといわれています。
 脳神経外科医の林成之氏は、北京五輪の競泳チームに、脳科学の見地から必勝法を伝授し、躍進に貢献したことで知られています。氏は、物事の達成の直前こそ、“ここからが本番だ”と意識し、「達成に向けて一気に駆け上がる」姿勢が必要で、そのために、“目標の130%を目指す”心で取り組むことが重要と指摘しています(『脳に悪い7つの習慣』幻冬舎新書)
 中国由来のことわざにも「画竜点睛を欠く」とか「九仞の功を一簣に虧く」とあり、大詰めまで来ながら“最後の一手”をおろそかにして、積み重ねた労苦を無にする愚を戒めています。  

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2017年07月07日

しんがり

 戦国武将たちの「変わり兜」が最近、静かな人気だそうです。昆虫や動物などをかたどったデザインが目を引く。それは、恩賞や出世のために、戦場で目立つことで、味方の総大将に認めてもらう工夫でした。
 そんな目立ってこその世界で、総大将のほうから、実力ある武将を頼み、仰せ付ける役があります。「しんがり」です。「しんがり」を残して味方のほとんどが退却するため、その働きを見届ける人はいません。誰が見ていなくとも、出すべき力を出す、真の実力者でなければ務まらない役目なのです。
 山登りでも、経験と判断力と体力の一番秀でた人が、隊列の「しんがり」を務めそうです。先頭に従いつつ、後ろから全員を気遣いながら、ついて行けない人や、よろけたり足を踏み外したりする人を素早く助けるのです。
 哲学者の鷲田清一氏は、そういう「フォロワーシップ」こそが、現代社会で重要なのではないかと指摘しています(『しんがりの思想』角川新書)  

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2017年07月06日

幸福な一生

 ディズニー映画「アナと雪の女王」。2人の姉妹の絆を描いた物語は、アンデルセンの童話「雪の女王」をもとにしています。
 アンデルセンには、「みにくいアヒルの子」をはじめ、不遇だった自身の半生を投影した作品が多くあります。彼は貧しい靴職人の家庭に生まれ、学校も満足に通えなかった。暇を見つけては本を読み聞かせ、文学への窓を開いてくれた父も急死。14歳で家を出て舞台役者を目指すが失敗。ラテン語学校に通うも、校長夫妻に疎まれ、退学の憂き目にあったのです。
 それでも、童話作家として成功した彼は、人生をこう振り返っています。「私の生涯は波瀾に富んだ幸福な一生であった。それはさながら一編の美しい物語である」(『アンデルセン自伝』大畑末吉訳、岩波文庫)と。  

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2017年07月05日

行動の人

 若いというだけで、いかに恵まれていることか。こんなエピソードがあります。70歳の文豪が青年に言った。「君は若い、若いということは幸せなことだ」。青年が“全てに例外はあり自分は例外です”と答えると、文豪は厳しい表情を浮かべたそうです。
 「そんないいかたを、私はだれからも聴きたくない。とくに若いひとからは絶対に」「そんないいかたは、欲ばりと無気力とを同時にしめしています。人生をみじめにし、行動する気力を弱めるものだ」。文豪とは、かのゲーテであった(ビーダーマン編、菊池栄一訳『ゲーテ対話録Ⅱ』白水社)
 人間の可能性は無限のはずですが、「自分には力がない」と決めつけると、本当に力が出せなくなってしまうものです。自分で自分の可能性を閉ざしてしまう愚かさを、ゲーテは戒めたのではないか。そして、ゲーテ自身が詩人、作家、自然科学者、政治家など多分野で活躍し、人間の無限の可能性を示した「行動の人」だったのです。  

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2017年07月04日

ぜひ聞かせたかった

 元素の周期表に、初めて日本生まれの元素名があります。原子番号113番「ニホニウム」です。
 実験のリーダーを務めたのが理化学研究所の森田浩介氏。氏は、陰で支え続けた妻・美栄子さんへの感謝を語りました。実験の成果が思うように出ないときも「女房が『そのうち出るんじゃないの』と励ましてくれました」。美栄子さんは9年前にがんで他界。「命名権授与はぜひ聞かせたかった」と氏は語る。  

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2017年07月03日

留学で日本に来た青年

 留学で日本に来た青年は、貧しく心細い生活を強いられていました。思うようにいかない学業、大国に蹂躙されていく祖国の姿に悶々としていました。
 だが、下宿先の婦人は、料理を振る舞うなど、何かと世話を焼いてくれた。「おばちゃんと言葉を交わすと、ホッとした」。帰国後、青年は婦人への感謝を何度も口にしたという。青年とは、中国の周恩来総理である(西園寺一晃著『「周恩来と池田大作」の一期一会』潮出版社)
 戦時賠償を放棄し、日本との国交正常化を決断した総理の采配は、世界の安定という大局の上に立ったものです。とはいえ、周総理の日本へのまなざしには、若き日によくしてくれた庶民の残像が重なっていたと思えます。  

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2017年07月02日

わずか5%

 米国のガルブレイス博士の真骨頂は、現実の調査から新しい「事実」を「発見」する「ファクト・ファインディング」だった――そう経済学者の伊東光晴氏は言う(『ガルブレイス』岩波新書)
 戦後の日本で、ドラマの主人公をまね、白いストールを頭から巻く「真知子巻」が流行しました。だが実際に、東京の銀座4丁目を歩く女性を調べると、「真知子巻」をしていたのは、わずか5%だったそうです。このように「5%でも時代をリードし、時代を象徴する」のが、現代資本主義の特質の一つであることを博士は示したのです(同著)
 「本当に未来の社会の動向を決定するのは、わずか5%の、活動的で献身的な人々の力です。その5%の人々が、やがて文化の総体を変革していくのです」。そう語ったのは平和学者のエリース・ボールディング博士でした。  

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2017年07月01日

7月1日を意味する方言

 早いもので今年も折り返しです。信越地方の高齢者の人々が、かつて使っていた言葉です。「キンノギツイタチから気分一新、出発だ!」。「キンノギ」とは「衣脱ぎ」の意。「ツイタチ」は「1日」。「衣替え」の7月1日を意味する方言だそうです。
 その地方では、蛇が脱皮した殻も「キンノギ」と呼ぶそうです。身も心も殻を破って、生まれ変わったような決意で進む季節にふさわしい、と印象に残りました。  

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